マネー・ドール -人生の午後-
「どうしました?」
 後ろから声がして、振り返ると、自転車のおまわりさんが、懐中電灯で私達を照らした。
「妻が気分が悪いというので」
 私を、追いかけてきたのかもしれない……どうしよう……
おまわりさんは私をじっと見た。不自然に顔を背ける私に、おまわりさんは訝しげな目をしてる。
「そうですか、でも、ここは駐停車禁止なんです」
「すみません……急だったので……」
「大目にみますから、すぐ、車どかせてください」
「ありがとうございます。助かります」
 車に乗ろうとした私に、おまわりさんが言った。
「奥さん」
 な、何?
「これ、違いますか?」
 髪をまとめていたシュシュが、はずれていたみたい。
「そ、そうです……」
「お大事にね」

 もう、生きている感覚がしない。
 もう、自分がどうなっているのかもわからない。

「死にたい……」

 運転席の慶太は、何も言わない。
 時々、照らす外灯にうつる慶太の目は、真っ赤で、ただ、前を見て、運転している。

「もう、死にたい」

 何か言ってほしかった。
 でも、慶太は、ずっと、黙ったままで、もう、私の顔も、見てくれなかった。
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