マネー・ドール -人生の午後-
 ここんとこ、ずっと遅くなってたから、久しぶりの真純とのベッド。
ああ、やっぱり真純の体は最高! あれ? ちょっとまた、おっぱいにボリュームが……太ったからか? いい感じ!
「おっぱい、おっきくなった?」
「そう? 太っただけだよ」
 思う存分愛し合って、いつもみたいに、すぐ寝ちゃうかなって思ったけど、今夜の真純は、何か言いたそう。
 なんか、心配ごとかな? ああ、リフォームのことか。
「リフォームのこと、俺も考えるからね」
「うん……」
違うのかな? なんだろう。他に心当たりは……簿記試験か。
「一生懸命勉強してるんだし、大丈夫だよ」
「何が?」
「簿記試験、心配なんだろ?」
あれ? どうもこれも違ったみたいだ。
うーん、俺って、どうして真純の気持ちがわかんないんだろう。
「心配ごとなら、なんでも話してよ」
 そう言うと、真純はうん、って頷いた。ああ、そうか、こうやって素直に聞けばいいんだ。別に、ずばっと当てる必要、ないんだ。
「……心配ごとってわけじゃないの」
真純はそう言って、枕元のスマホをとった。
「みりちゃんから、メールがきたの。無事、赤ちゃん生まれたみたい」
「へえ! そうなんだ。よかったねえ」
画面には、おばさんになったみりちゃんと、子供たちと、ダンナさんと、小さな赤ちゃんが写っている。
「みりちゃん、同い年なの」
あ……もしかして……
 俺は、スマホを枕元に置いて、真純を抱き寄せた。
「俺たちも、考えよっか」
俺の言葉に、真純はほっとしたみたいに笑った。
「赤ちゃん、生んでもいいかな……」
「いいにきまってんじゃん」

 妊娠。出産。育児。
結婚したら、当たり前のことだと思ってた。
大人になったら、結婚して、子供ができて、親父になって、その子に子供ができて、じいちゃんになる。
 当たり前じゃなかった。こんなに当たり前だと思ってたことが、こんなに難しいことだって、思わなかった。

「赤ちゃん、欲しいの」
「俺も欲しいな」
「あんまり時間ないよって、みりちゃんに言われちゃった」
そうだよな……若く見えても、真純も、四十一。『機能的』に、制限は、あるよな……
「でも、焦ってもね。こういうことは、授かりものだからさ」
「そうだね。赤ちゃんが来たいって、思ってくれるように、仲良くしなくちゃ」
真純は、にっこり笑った。
「私達も、リフォーム、ね」
リフォームか……夫婦としての、リフォーム。
「明日から、ますます、がんばっちゃお」
クスクス笑う真純の唇にキスをすると、俺の胸に丸まって、安心した子供みたいに、目を閉じた。
「おやすみ」

 子供かあ。ついに俺も、パパか!
十六年前に買ったあのベビーシューズ。
懐かしいな……あの時は本気で……つらかった。でも、もう過去のことだ。リフォーム。何もかも新しくすればいい。
 そのためには、もっとしっかり稼がないとな! それが、男ってもんだ。
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