マネー・ドール -人生の午後-
 凛ちゃんはずっと泣いていたみたいで、目が真っ赤に腫れている。
「凛、しばらく、おばさんとこおるか?」
その言葉に、目が不安でいっぱいになる。
「パパもどっか行くの?」
「そうやない。夜、子供らだけになるのはな、パパも心配なんや。だからママが帰ってくるまで、おばさんとこで、碧とおってくれるか」
「お兄ちゃんは?」
「兄ちゃんは、パパの会社に連れて行く」
「じゃあ凛も行くもん!」
 凛ちゃん……さっき、嫌いって泣いて、あんなにぶたれたのに……
「女の子はあかんのや」
「ねえ、凛ちゃん、パパにはお仕事の合間にここに来てもらうから。ね、碧ちゃんと一緒に来てくれない? おばさんもね、いつも一人だから、寂しいの」
「おじさんは?」
「おじさんね、お仕事ばっかりしてるから、ほとんどお家にいないの」
「パパもね、いないよ」
「そうね、寂しいよね」
「パパ、ほんとに来てくれる?」
「約束するけ。ゆびきりしよう」
 二人はゆびきりげんまんをして、ぎゅっと抱き合った。
「じゃあ、荷物用意して、碧も連れて来るわ。今日も夜勤なんや」
「うん。夕飯用意するから、よかったらみんなで食べて。ねえ、凛ちゃん、何が食べたい?」
「うーんと……ハンバーグ!」
「よし、ハンバーグね。おばさん、結構得意なんだよ」
「ママもね、ハンバーグだけは美味しいんだよ」
「だけ?」
「ママね、あんまりお料理上手じゃないの」
へえ、そうなんだ……意外。
「ほら、凛行くぞ。ランドセル持って」

 手をつないで出て行く二人。
 親子、なんだ。やっぱり、将吾はいいパパなんだ……
 私、母親に手なんてつないでもらったことない。あの人の手の感触は、痛い、だけ。殴られた、だけ。

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