マネー・ドール -人生の午後-
「お邪魔ですか?」
 山内くんが、遠慮しながら戻ってきて、乾いた洗濯物を、小さなキャビネットに片付けた。
「はしゃぎすぎだよ、ねえさん。真純さん、そろそろ、帰りましょうか」
「あら、もう? せっかく真純さんと楽しくお話ししてたのに」
「私も、もっとお話ししたいんだけど、ちょっと時間があるの……今度は、お菓子、持ってきていいかしら? ねえ、ゆっくり、お茶しましょ」
「そうね、けんちゃんがいると、内緒の話ができないもの」
 知美さんは、私達をフロントまで見送ってくれて、名残惜しそうに、手を振った。

「ありがとうございました。真純さんの話をするとね、喜ぶんですよ。きっと、自分を真純さんに重ねて、真純さんになった気分になるんでしょうね」
 そう言った山内くんの目には、少し……涙。
「知美さん、お悪いの?」
「今は落ち着いてます。続けて両親が亡くなって、面倒をみれなくなって、あの病院に入れたんですけど……面会に来る人もいないし、寂しいんですよ。僕が近くで看れるなら、退院させたいんですけど……なかなかね」

 ……山内くん、キミ、もしかして……

「山内くん、養子さん、なんだよね?」
「ええ。姉とは、遠い、血縁です」
「まちがってたら、ごめんなさい。山内くん、知美さんのこと……」
「正直に言います。姉弟なんですけどね……ずっと、姉しかみえませんでした。優しくて、美人で、家族を亡くした僕のこと、本当の家族のように迎えてくれて、かわいがってくれました。でも、姉は、僕のことを弟としか……しかたないんですけどね」
そうかな……私には、知美さんも……
「伝えないの?」
「そんなことをしたら、姉は僕に甘えられなくなります。いいんですよ、このままで。弟として、姉を支えられたら、それで僕は、幸せです」

 幸せ……山内くんは、それで、幸せなんだ……

 幸せって、なんなんだろう。
 私、幸せなの?
 本当に、幸せなの? 山内くんみたいに、そんな顔で、幸せですって……私、言えない。
 
 幸せって、私は幸せって……思い込んでる。言い聞かせてる?

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