マネー・ドール -人生の午後-
 金曜日。
 私たちは、みんなでクリスマス会をした。中村くんと、まだ包帯のとれない聡子さんも来てくれて、みんなでワイワイと、ご飯を食べて、ケーキを食べて……
「これは、俺と真純から子供たちにプレゼントね」
 涼くんにはグローブ、女の子二人には、お揃いのコート。子供たちは、気に入ってくれたみたい。
 早速コートを着て、荷物を持って……帰っちゃうんだ。もう、帰っちゃうんだね。
 泣かないって決めてたのに、ダメね、私……涙が止まらない……
「また……遊びに来てね……おばさん、待ってるからね……」
「おばさん、凛、おばさんのこと、大好き」
「碧も大好き」
 あったかくて、柔らかい子供たち。抱きしめた手が離せなくて、慶太が、おじさんは? って。
「おじさんのことも好きだよ、おばさんの次に!」
「なんだよ、まあ、いっか!」

 みんなで笑って、中村くんの車を見送って、なんだか、ガランとしちゃったね。
 久しぶりの、二人で入るベッド。なんだか、あの子たちの匂いがする。テーブルも、ソファも、お風呂も、トイレも、なんだかね、あの子たちの匂いがするね。

「こんなに静かだったんだなあ」
「そうね、ずっとこうだったのにね」

 お風呂上がりの慶太。セットしてない髪、意外と長いよね。
「真純……俺さ、お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「なに?」
「俺……勝手にな……検査したんだ。DNA検査……杉本との関係を、調べたくて……ごめんな……」
「兄妹じゃ、なかったんだよね」
「知ってたのか?」
「将吾から聞いたわ」
「検査ではっきりすれば、お前も、俺のことだけを見てくれるんじゃないかって思って……」
 慶太……そんなことしなくても、私ね……慶太のこと、好きなんだよ。
「どうして、私だったの?」
「わからない。今でも、本当に、わからないんだ。正直に言えばね、真純のこと、田舎くさくて、ださくて、暗くて、バカにしてた。最初は、カラダだった。でもな……俺さ、たぶん、初恋だったんだよ、真純が。いろんな子とつきあったり、遊んだりしてたけど、こいつが欲しいって、そんな風に強く思った子は、真純だけだった。どうしてかな。わかんないけどね、ただ、好きだったんだろうな。でも、俺はね、それが、恋ってやつだと思うんだ。ただ、好き。条件も理由も、何も関係なく、ただ、好きになる。それがね、恋なんじゃないかな」
 恋……それが、恋……
「真純が、俺じゃなくて、俺の条件を選んだことは、わかってた。だって、俺が杉本に勝てたのはそれだけだったからさ。俺なんて、なんの取り柄もない、ただの、金持ちのドラ息子。俺が真純を幸せにできる方法は、それだけ、だろ?」
 慶太は、ちょっと寂しげな目をして、私の、手を握った。
 その手は、あったかい手。細い手。きれいな手。
「納得してくれた?」
「もし……私じゃなかったら、もっと幸せになってたと思う?」
「思わない。俺は、真純とじゃないと、幸せになれないから」

 もう、いいじゃない。
 もう、いいんだよね。

 これが、私達の人生。これが、私達の生き方。私達が、私達の、選んだ人。

 間違ってない。間違いなんてない。だって、こうしか、ならなかったんだもん。こうなることが、私達の、運命だったんだもん。

「私のこと、好き?」
「好きだよ、真純。大好き」

 将吾には、聡子さんがいる。
 私には、慶太がいる。

 私と将吾は、一緒にはなれなかった。そういう、運命だった。
 だって、あなたは聡子さんと、私は慶太と、一緒になる運命だったんだもん。

 愛されていい? ねえ、慶太……私、あなたに、愛されてていいよね。
 私、あなたのこと、ずっと愛してて、いいよね。
 こんな私だけど、慶太、あなたの奥さんで、ずっと、いてもいいよね。

「慶太、あのね……私、怖いの」
「何が怖いの?」
「……母親に、どうやってなればいいか、わからないの」
 慶太……ごめんなさい。私やっぱり、ママにはなれないの。あなたを、パパに、できないの。
 でも、慶太は、私の肩を抱き寄せて、ふふっ、と笑った。
「そうだなあ。俺もガキだし、到底親父になれる気がしないなあ」

 ありがとう、慶太。
 これも、運命、なんだよね。
 私たちは、二人きりの家族。子供がいなくたって、私たちは、家族。

「妊活終了! でも、俺はじいさんになってもエッチはするからな!」
 は? なんの宣言?
「おっぱい、たれちゃうかもよ? それでもいいの?」
「たれないように、毎日マッサージしてあげる」
 またニタニタしちゃって。
「今日は久しぶりだから、朝までがんばるぞー!」
「あっ、もう……いきなりそんなこと……」

 でも、私もちょっと……今夜は……朝まで、起きちゃうかも!
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