だから、無防備な君に恋に落ちた
Prologue




『航汰、今日から家庭教師をつけるからね』


突然、母親がそう言いだした。




『…はい?』


俺は読んでいた漫画の途中に自分の指を挟み、母親のいるソファーに目をやり、聞き返す。




『だーかーらー!
 こんな成績じゃ明蘭に入れないでしょ?
 だから優秀な家庭教師をつけるから!』


母親はそう言うと、俺からの質問を一切聞かないつもりなのか、リビングから出て行った。




『なんだよ、家庭教師って…
 てか!勝手に決めんなよなー!!』


俺はリビングを後にした母親めがけて、そう叫んだ。


でも、母親からの返事はない。



確かに、母親が言う通り、一学期の成績は思わしくなかった。

中学最後の部活に力を入れすぎた、だから勉強までは…そんな正当な理由をつけたかったが、我ら北村中学バスケットボール部は県大で一回戦敗退。

弱小バスケット部にしては県大まで出れたなんて奇跡、でも大人はそんなことどうでもいいみたいで、母親も成績だけしか見ていない。




『…明蘭なんて俺が行きたいなんて言ってねぇよ。
 親父が自分の母校に入学させたい、そう思ってるだけじゃん…』


俺は誰もいないリビングで呟き、そして読みかけの漫画を再び読み始めた。





それから、どのくらいの時間が経っただろう…。





ピンポーン…


家のインターホンが鳴り響き、直感で、母親が言っていた家庭教師がきた、そう思った。



『はーい』


応対しようと玄関に向かう母親の足音を聞きながら、俺はリビング階段から自分の部屋に移動する。




誰が家庭教師なんかと勉強するかっての!




俺は部屋のドアを閉めて、その場に座り込む。




下からは笑い合う声が響いてる。




『航汰ー』


階下から母親が叫び、俺はドアに耳を当てる。




『航汰ー、家庭教師の先生がお見えになったわよ?』



家庭教師なんてどうでもいいっての!


そう思いながらも、階段を上ってくる母親の足音が聞こえてきたので、俺は部屋のドアを開けた。




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