黒太子エドワード~一途な想い

自暴自棄のナバラ王

 黒太子エドワードだけにとどまらず、ペドロ1世もエンリケ・デ・トマスタマラも同様で、ナバラを通ってもカルロス2世には挨拶無しであった。

「何故、皆、わしを無視するのだ! どいつもこいつも馬鹿にしおってからに!」
 色んな所から通行料をとれると踏んでいた男はそう叫ぶと、ドンと近くにあった机を叩いた。
 何度も叩かれていたせいか、その机の叩かれた所がメリッと嫌な音をさせ、割れ目が入った。
「だ、旦那様……」
 傍にいた大男のパウロが止めようとしたが、カルロス2世は構わず、その割れ目の入った所をもう一度叩いた。
「全く、どいつもこいつも……!」
と言いながら。
 すぐにそれは壊れてしまったが、彼は壊れて2つに割れたそれをまだブツブツ言いながら蹴飛ばしていた。

 カルロス2世がそんな風に暴れている間にも、黒太子エドワードはペドロ1世と共にカスティリャ王国に侵攻し、ナヘラの戦いへと突入した。
 結局、その戦いは黒太子らの勝利となったのだが、ペドロ1世は領地割譲の約束を全く果たそうとはしなかった。

「領地も譲らず、遠征費用も払わんだと! 馬鹿にするにも程があるではないか!」
 侍従のトマスからその報告を受けると、黒太子はそう叫んだが、すぐ咳き込んだ。
「あなた、無理はなさらないで」
 黒太子と再婚して6年になるジョアンは、そう言いながら夫に駆け寄り、その肩をさすった。
「すまん……」
 夫のエドワードがそう言いながら手を見ると、少し赤黒い血がついていた。
「ペストではいようでございますが、お疲れなのでしょう。どうせ領地も割譲されないというのでしたら、すぐにでもここを離れませんこと?」
「だが、ここまで来て、遠征費用がかさんでいる。それを補う分位払ってもらわねば、困るではないか!」
「あなた、あなたに会おうともなさらない方が、そんなお金を払って下さるとお思いなのですか?」
 ジョアンのその言葉に、黒太子は思わず黙り込んだ。
「ねぇ、あなた、イングランドとまでは申しませんから、アキテーヌに戻りませんこと? あなたが体調を崩してしまうような場所に、生まれたばかりのリチャードを置いておきたくなどありませんわ」
 二人の間には、2年前に生まれた嫡男、エドワード・オブ・アングレームに続き、先日、次男のリチャードも生まれていた。
 そして、父親のエドワードと共に、長男のエドワードも最近、おかしな咳をするようになっていた。
「分かった……。子供達の為にも、とりあえず、アキテーヌまで戻るか……」
 そう言うと、黒太子はすぐにそこを後にしたのだった。
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