黒太子エドワード~一途な想い

フランス軍、壊滅

「壊滅だと……?」
 その悲惨な知らせをフランス王のフィリップ六世は、後方の簡易テントの本陣の中で聞いた。
 まだ青年期で三四歳のエドワード三世に比べ、フランス側のフィリップ六世は、既に五〇を過ぎていた。
「何故だ? 何故、そういうことになる? 数では、我々の方が圧倒的に優っていたはずではなかったのか!」
 確かに、数だけで考えると、フランス軍は約三万~四万の大軍。対するイングランド軍は、その半数足らずの約一万二千であった。
 自分のフランス軍が、その兵力さで、よもや負けようとは思っていなかったのだろう。大軍故に、統率がとりにくいことがあっても。
「奴らは前もって穴を掘り、杭まで立てていたのです。そこに騎馬隊が突撃したもので、次々倒れてしまい……」
「クロスボウ部隊はどうした! そういう時に備え、待機させていたのではなかったのか!」
「それがその……ロングボウ部隊にやられた上に、突撃した騎馬隊に踏み潰されまして、その……全滅致しました……」
「ぜ、全滅だと……!」
 流石にその報告には、フィリップ六世も真っ青になってしまった。

 彼が頼りにしていたクロスボウ部隊は、水平射撃の場合、射程や威力、命中精度でロングボウ隊に優っていたが、丘の上の敵めがけて上向きに射なければならないことで、効果が大きく減殺されていた。
 一方のロングボウはというと、対スコットランド戦で熟達した上に、一分間に六~一〇発射れた。が、対するクロスボウは、一分間に一~二発がせいぜいであったので、それも全滅する一因であったといえた。

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