黒太子エドワード~一途な想い
 一方、王妃フィリッパはというと、その言葉通り、カレー市民の代表者達を手厚くもてなし、帰らせたのだった。
 但し、彼らが帰ったカレーでは、既に市民達の立ち退きが始まっており、当座のパン等は少し手にしてはいるものの、疲れた表情の市民達が続々と城壁から出てきていたが。
 立ち退きを迫られた者達は哀れだったが、この場合、命だけでも助けてもらえて幸いだったと言うべきなのかもしれない。
 その命を救うべく立ち上がった六人の市民の話は「英雄譚」として語り継がれ、オーギュスト・ロダン等によって作品にもされている。
 ロダンの作品「カレーの市民」の習作は、ひろしま美術館の常設展示でいつでも見ることが出来る。
 当時の市民にとって、裸足で歩かされるというのは奴隷のような扱いの上、自分の首に絞首刑用のロープを巻く等、とても勇気のいる行動であったので、ロダンもそれを讃えようとしたのだろう。
 その際のリーダーと目されるユスターシュ・サンピエールに関しては、その場名以外の資料が見当たらず、詳細は不明である。
 彼がそれからの余生を静かに、出来れば幸せに過ごしていて欲しいと願わずにはいられない。
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