LOZELO
「江口先生」
「なんでしょう」
「いつか先生と働ける日がきたら、嬉しいなって思います」
精一杯のうまい言葉のつもりだったけど、伝わっただろうか。
うん、とか、嫌だ、とか返事は簡単なはずの私の気持ちに、また固まる江口先生がよくわからない。
なにか言葉を発しようと意味もなく動く口は、何を私に伝えようとしてるんですか。
「なーんて、大学に受かる学力もないくせに、気が早いですよね」
「いや、違う」
気を遣ってはぐらかした私の発言は簡単に引き戻されて。
返事を待つ不安から逃げ出すことを許されなかった。
だけど私が見上げる先には、見慣れた優しい目。
私を救ってくれた、瞳。
「黒川さんなら大丈夫。へばりついてでも頑張りそうだもん」
「私のことバカにしてません?」
「そんなことないよ。僕も待ってるから」
私のもう1つの夢を半分背負わされても、江口先生はさらにその瞳を輝かせて笑顔を浮かべる。
私まで微笑んでしまう。
「もしも黒川さんと働ける日がきたら、たくさん助けてもらわないと。でもその頃までには、もう少しくらいは頼りがいのある医者になっておくから」
はい、と差し出されたのは立てた小指。
実現する保証のないお互いの約束を心に刻むには少し可愛すぎる気もしたけれど、本気で考えてくれたことが嬉しくて。
深いことなんて考えずに、私も右手の指を絡めた。
「僕も医者としてこれから成長していくから、黒川さんも頑張って。応援してる」
その温もりが患者さんを救うように、いつか私も。
その気持ちも、しっかりと心に刻み付けて。