LOZELO
「検査、どうだったんですか」
淡々と、訊ねた。
それを聞くために、待っていたのだから。
もっと話したいことがありそうな空気は感じたけど、医者はややあってパソコンの画面を見るように促した。
「これ、見てくれるかな」
目の前に映し出されたのは、見たこともない赤い世界。
「これ、紗菜さんの大腸の中」
もう一枚出された写真は、似ているけれど少し違う。
「こっちは、健康体の人の大腸の中の写真」
明らかに、素人でも違いがわかった。
真っ直ぐなトンネルのような正常な大腸と、ブドウのように所々膨らんで、赤みも広がり、口内炎のような白いできものがたくさんある、私のそれ。
「紗菜さんは、腸の病気かもしれない」
「…病気?」
目の前は医者の白衣より真っ白なままで、絶望感に包まれる。
そういう状況は、想定していたはずだったけど。
「クローン病という病気かもしれない」
「…何ですか、その病気」
初めて聞く病名にあっけらかんとするしかなくて、病気の説明をされても未知の世界を提示されているような感覚。
恐怖と不安がふつふつと沸いてきた。
「早期に見つかれば飲み薬で様子を見れるんだけど。紗菜さんの場合、症状が進んでいる」
症状なんて、目の前の写真が物語ってる。
さっきから何度も、正常な大腸の写真と私のそれを見比べているけれど、どんなに妥協したって同じ腸の中だとは思えない。
採血の結果も説明してるけど、何を言っているのかさっぱりわからない。でも聞き返す気力さえない。
検査の刺激もあって痛みが継続している腹部を押さえて、静かにため息をついた。
「専門のドクターに治療をしてもらう気はないかい?というか、そうしてもらいたいんだけど、どうかな?」
できれば、一日でも早い方がいい。
真剣な眼差しに見つめられ、決断を迫られるけれど。
「あの、一つ、聞いてもいいですか」
自分が病気であるかもしれないという状況に立たされて、私はついに頭がおかしくなったんだと思った。
自分がどうでも良くて、仕方ないのだ。
「治療しなかったら、どうなりますか」
目を見開いた医者の顔を、私は一生忘れないだろう。