LOZELO
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駅まで歩くと言ったのに、強引に荷物を奪われて車に乗らざるを得なくなった出発の朝。
走って寄って来た澪は、私を真っ直ぐに見つめて、がんばってね、と言った。
さなおねぇちゃんへ、と書かれた紙を渡されて、あとで読んで!と恥ずかしそうにする。
ありがとう、頑張るよ、と言って頭を撫でた。
少し微笑んで見せると、澪も笑ってくれた。
駅までの短い道中、これだけは守ってほしいと口うるさく言われたのは、電話をかけたら必ず出てくれ、というなんとも不思議な約束だった。
生存確認みたいだなと思って、少し笑ってしまった。鼻で。
しばらく、この人ともお別れだ。
いつも、お弁当をつめ、私が毎日のように着るワイシャツにアイロンをかけてくれる人。
お父さんは出張で、2日前くらいにどこかへ旅立った。
病気の疑いを持たれて入院が決まってから、どことなく私に距離を置くようになったなと思っていた。
出張に出かける日の朝、私が学校へ行こうとすると名前を呼ばれて、頑張って来いよ、と私より不安そうな表情で言った。
最後に一言、ごめんな、と反応に困る謝罪をされたから、スルーしたけど。
駅に着くと、澪が私に渡したのと同じ柄の封筒を渡された。
「何かあったら、いつでも電話してね」
「…はーい」
やる気のない返事をして、軽く感謝の言葉を述べて、車を降りた。
ここからはもう、本当の孤独が待っている。
時刻は朝8時半。
莉乃は、私の欠席に何を思うだろう。
担任は、私が入院することをホームルームで言うのだろうか。
そしてみんなで喜ぶのだろうか。
あいつも。私が学校からいなくなって、清々するのだろう。
切符を買って、改札を抜けたら、涙があふれてきた。
この列車は、一体私をどこへと連れて行ってくれるのだろう。
澪の手紙は、まだ覚えたてのひらがなで、私への心配と応援の言葉、そして、おねぇちゃんのわらったかおがみおはだいすき、と締めくくられていた。
その母親も同じ便箋に、案じる気持ちを綴ってくれたらしい。
私には面と向かって言ったことのないような気持ちも。
"あなたの本当の母親にはなれないけれど、澪と同じくらい、あなたのことを愛しています"
その意味を、私は理解できなかった。しようとしていないからかもしれない。
キャリーバッグの後ろの小さいポケットに手紙を詰め込むと、その存在を心から消した。
まるで雲が流れるように。ふわりと。
電車に乗り込んで、出発のアナウンスが流れた。
私は、旅立つ。
見知らぬ土地へ、一人。