LOZELO



夕方のニュース番組を聞き流しながら食べることだけをして、立ち上がる。

シンクに食器を置いてキッチンを出る間際、「お風呂入ってもいいわよ」と優しく言われ、聞こえないような返事をする。

背中に突き刺さる沈黙が心地悪くて、静かに舌打ちをした。

風呂に入って身も心も綺麗になるならいいのに。

そんな幻想を笑ってみても、なにも変わりやしないことを私は知ってる。

階段をのぼりながら、ストッキングから足裏に突き刺さる寒さにさえ苛立った。



薄っぺらいカバンを、扉を開けた殺風景な自室に投げ捨てる。

ベッドに飛び込むと、嗅ぎ慣れた自分の匂いに安心する。

無防備になってもいい場所。

なにも考えなくてもいい場所。

確か生物の宿題があったはずだけれど、とりあえず明日の授業までに間に合わせればいいんだし、机の中に置いてきた。

カバンの中に入っているのはさっき買ったルーズリーフと財布、ケータイだけ。

風呂に入ったら、何をしよう。

キッチンから談笑が聞こえてきて、頭に血が上るようだったから、勢いよく部屋の扉を閉め、震える手で耳を塞いだ。

もうすぐ桜が咲きそうな、高校2年の4月のこと。
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