LOZELO


「忙しいんじゃないんですか?」

「ん?そっちの先生じゃないよ」


もっと、かわいらしい先生。

詰め所に背を向けて、病室が並ぶ廊下を奥へと進む江口先生の背中を追うと、一番端の私の病室へとたどり着いた。


「はい、自分の心に素直な、立派な先生だよ」

「どうしたの?紗菜ちゃんと江口先生」


お風呂上りで、看護婦さんと一緒に髪の毛を乾かし終わった優奈ちゃんが、江口先生と私を交互に見比べている。


「優奈ちゃん、今、何がしたい?」


江口先生がそう問うと、優奈ちゃんはにっこり笑って、迷いもなく答えた。


「お絵かきしたい!」


自分の世界で生きて、かつ優奈ちゃんは誰からも愛されている。

優奈ちゃんの言葉はいつも真っ直ぐで、でも私は一度も不快に思ったことはなかった。

それが優奈ちゃんだから。


「紗菜ちゃんも一緒にお絵かきする?」


彼女と二人の時間が、今の私にとって一番幸せな時間だと思った。


「うん、一緒にやろう!」

「やったぁ!」


静かに出て行こうとした江口先生に少し微笑むと、小さな声で私に呟いた。


「笑えるじゃん、ちゃんと」


江口先生がいなくなった病室で、優奈ちゃんに塗り絵の催促をされながら、握り締めていた私のものではないハンカチを見つめて、また泣きそうになったのは誰にも秘密。
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