ネトに続く現の旅
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「いらっしゃいませー」

それはいつもと変わらない、ごくごく普通の金曜日の夜だった。
私はやっと肩まで伸びた髪を後ろでひとつにまとめて、いつものように大きな声で叫んでいた。
金曜日と土曜日の夜は、こんなに小さな居酒屋でも、途切れることなくお客がのれんをくぐってくる。

枝豆の入ったザルとタコキムチをおぼんに乗せると、冷えたビールジョッキを二つ冷蔵庫から取り出して、サーバーにセットした。
黄色い液体と細かい泡とが絶妙のバランスで注がれていく。それを茶色いおぼんに移動させて、素早くなおかつ丁寧に、二人組の常連さん達が待つカウンターの席へと運んだ。
こういう忙しい時間帯は、早回しのようにくるくると足を動かしながらも、頭は動かさないように重心を落として、床からあまり足を離さずに歩くのがコツだ。

厨房の袖に戻るや否や、

「梅サワー、ウーロンハイ、カルピスサワー、熱燗二本、生グレープフルーツサワー、生ビール中ジョッキ3杯よろしくね~」

ほっとする間もなく、店長に読み上げられた無数のドリンク伝票を片手に、「かしこまりましたー」と返事をして、いくつも並べたジョッキに氷を入れようと、製氷機に手を差し伸べた。その時、

「すいません、ちょっと。」

ビールサーバーの斜め前のテーブルで盛り上がっている、若い男性のグループの中のひとりに声を掛けられた。


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