ネトに続く現の旅
それからの何ヶ月かは、そこらへんでばったり現に出くわすことが多くなった。

デートの約束をしているわけでもないのに、コンビニの中だったり、バイトに向かう路地の途中だったり、夜だったり、バイクに乗っているところを見かけたりと、それこそめったに家を空けない私が、面白いくらいあちこちで現の姿を見た。

もしかしたら、現がわざとそうしているのかもしれないと思ったこともあったけれど、私に対する心残りや、震えるような緊張感や、胸の高鳴りや、どこまでも消えることの無く続く恐怖なんかが、全部ごちゃごちゃに入り混じって、私に偶然出会うことまで全てが、昔から決められてしまっていることのように、現と私を取り巻く空気が無意識にそうしているのだろうと思った。
空気ですら私たちに優しいのかと少しだけ感動した。


その時の二人の周りに流れる空気の感じを、なんと表現すればよいのだろう。
空気と言うよりは、まるで二人して深くて青い波にゆっくりと飲み込まれていくようだった。
それはとてつもなく大きくて、私たちの力では、いくらもがいてみても到底逃げ出すことは出来ない。
それなのに、いつしかもがくのを止めて、このまま波の気が済むまで流れに身を任せてゆらゆら漂うのもいいかと思えるのは、相手が現だからだろうか。
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