不思議の国の女王様
 
「ジャック? もう終わったのか?」



 手でふれてみれば、なるほど、支度は済んでいた。


 2つのレースリボンで束ねられた黒髪が、顔の両脇で渦を巻く。



「お前は本当に器用だな」



 感心しつつ振り返ると、隻眼とぶつかった。


 深い紺青の左目が、かすかに揺れ動いている。



「……私は、女王様の椅子に頭は下げません」



 静かに、しっかりとした口調でジャックが言わんとすることを、理解した。



「出来損ないの私に、数字ではなく剣をくださったのは、女王様です。だから今の私がある。

 あの日から、私は心に誓いました。貴女様に生涯を捧げようと。私が頭を下げるべきは、貴女様ただ1人であると」
 
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