薬指の秘密はふたりきりで

「課長に用があって来たんです。今話しかけても大丈夫でしょうか?」

「いいと思うよ。締めも終わったから、落ち着いてるし」

「じゃあ、行ってきます。・・行こ」


二人して課長のデスクまで歩いていって、話をしてる。

課長の小さな目がだんだん大きくなって、しまいには立ち上がって、あはははは!と大声で笑って男子社員と握手してる。

暫くすると、課長の嬉しげな声が課内に響いた。


「おい、みんな、聞いてくれ!水野君が結婚するそうだ!」


ワッと声が上がる。

あちこちからおめでとうの声がかけられて、課内が一気に華やいだ。

拍手を浴びる優花の照れた顔は、とても幸せそう。隣にいる彼も、みんなに話し掛けられて、照れ隠しに頭を掻いたりしている。


優花は、各デスクに小さな包みを配りはじめた。

結婚が決まると、大抵の女子社員は、こうして世話になったところに幸せ報告にまわる。


「――入社当時、先輩にはお世話になりました」

「優花、おめでとう!良かったね!」

「ありがとうございます。あ、彼は同じ企画課の先輩で、長内君です」

「長内裕也です。よろしく」

「佐倉です」


真面目そうで、笑うと目がなくなって、とても優しそうな人だ。

優花は、交際2年目の記念日に、彼が結婚しようって言ってくれたんですーと、幸せそうに笑う。


「次は、先輩ですね。これ、どうぞ」
< 21 / 52 >

この作品をシェア

pagetop