薬指の秘密はふたりきりで


亮介は「独身」って答えたけど、「彼女がいる」とは言ってないだろうな。

余分なことを言うひとではないもの。

少しだけ、残念な気分になる。


「ね、彩乃。彼、紹介してくれる?」

「え?」


いつの間にか、冴美と悠木さんがそばに来ていた。


「あ、ぼんやりしてて、気付かなくてごめんなさい」


二人に亮介を紹介すると、悠木さんと男同士で話をし始めた。

仕事は何を?とか言ってるのが聞こえてくる。


「彩乃ー。彼、すっごい素敵じゃない!」

「うん・・・だからすっごくモテて、やきもきすることが多いんだ」


そう言うと、冴美はそうなんだーって、亮介をじっと見ている。


「あ、ね、冴美、指輪見せて。どんなのにしたの?」


実は、冴美はジュエリーデザイナーをしている。

私に手のモデルを頼んでくるのも、勿論彼女だ。

業界の中では人気のデザイナーさんなので、そんな彼女が選んだ指輪にはとても興味があった。


「これはね、私がすっごく尊敬してる先輩に、特別にデザインしてもらったの。ほら、ここに誕生石があるのよ」

「わあ、可愛い!」


正直ジュエリーのことはよくわからないけれど、冴美の指に光る物は、とても上品に思えた。

捻りのあるデザインに宝石が1列に埋め込まれている。


「彼のは、裏側に誕生石が埋め込んであるの。彩乃。次は彩乃だよ。その時は、私が心を込めてデザインするからね」

「うん。絶対冴美に頼むから、その時はお願いね」


亮介をちらっと見る。

その気、あるのかな――――




「では。最後に、花嫁から幸せのおすそ分けがあります!未婚の女性は、こちらに集まってください!」


わっと、みんなが駆け寄って行く。

私も、行っておいでと亮介に背中を押されて、前に出た。

みんな自分よりも若く感じる。

アラサーの私が・・・と思うと、なんだか恥ずかしくて、みんなよりも一歩後ろに並んで待つことにした。
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