30歳の異世界トリップ
異世界トリップは突然に
深夜2時
布団の中でスマホを片手に涙ぐむ私。
「~~~っ。アルスカッコ良すぎ!ミヤと結ばれてよかったよー」
最近はまってるケータイ無料小説サイト。
今日もお気に入りの小説を読み終えて大満足と少しの後悔。
あと少し、あと1ページ…と、読み進める間にいつも深夜なのだ。
「寝よ…明日も確実に寝不足だな…」
目覚ましを7時にセットして眠りにつく。

私、立野咲(たての さき)は何処にでもいる普通の女子…
いやいや、本日30歳になったんだから立派な女性かな?
まあ、自分で言うのもなんだけど…
顔も普通。スタイルも普通。ちなみに彼氏もなし。
平々凡々な私の唯一の趣味はケータイ小説。
たまたま、アクセスしたサイトに載ってたのを読み出したのがきっかけではまった。
特に決まったジャンルはないが、よく検索してるのは「異世界トリップ」
ある日穴の中に落ちてー
気付いたら知らない土地でした。みたいな?
非日常で、ワクワクしたし煩わしいことも考えずにサクサク読めるのが好きだった。

ーーピ
ーーーピピピッ
「うぅぅ…」
枕元にあるスマホのアラームを止めると、あと10分…
これもいつものこと。
何せ低血圧でなかなか起きれないのだ。
あと10分があと5分になりいよいよ起きなくては。
ヨロヨロと布団から這い出して、カーテンを開けてヤカンに火をかける。
沸かしてる間に、顔を洗い、寝癖を直す。
これもいつものこと。
お湯が沸いたら、コーヒーを入れて化粧をしながら朝のニュースを流し見る。
いつも通り。平和な一日の始まりのはずだった。
「いってきまーす」
誰もいないワンルームの部屋に声をかけ、扉を開けて外に出た…はずだった。
「ーーん?あれ?」
目の前に広がるのは、毎日見慣れたはずのマンションの廊下…ではなく
しんしんと降る雪で真っ白になった木々が生い茂る森(たぶん)…だった。
「え?え?」
混乱する頭をふるふる揺すって辺りを見回す。
何処を見ても見慣れたものはなくって…辺りはやっぱり雪一色だった。
「そうだっ!扉!」
今まさに出てきたであろう扉を確認するために後ろを振り返るも、そこにあるはずの扉はなく。
同じ景色が広がるだけだった。
どういうこと?私、まだ寝てるのかな?
けど、降りしきる雪の感触。
吐き出される白い息。
凍てつくような寒さは夢なんて優しいものではなく、現実だと思い知らされる。
「ーーーっ。寒いっ。」
呆けてばかりいられない!
リクルートスーツにパンプスという格好は雪の森には絶対に適切じゃない。
濡れた足下から指の感覚がなくなってきた。
とりあえず、誰か探そう。
こんなところに突っ立てたら確実に死ぬ!
ヒールは低めのパンプスでもかなり動きづらくて、一歩一歩進むごとに寒さも相まって体力を奪っていく。
「誰か!誰かいませんか?」
出来うるかぎりの声をだしても森の中に吸い込まれていくだけ。
「お願い…誰か助けて…寒い…」
どれくらい歩いただろうか。
全身はとっくにびしょ濡れで体は寒さでガチガチと震えて止まらない。
一歩をあるくのにものすごく時間と体力がかかった。
「だれ…か」
どれだけ進んでも同じ景色、人どころか動物もいない。
寒くて、眠い。
今日は私の誕生日なのになぁ…
仕事の帰りにお気に入りのケーキ屋さんで苺のショートケーキを買って、明日は休みだから次に目をつけてた小説を一気読みしようと思ってたのにな…
私、こんなどこかもわからない所で死んじゃうのかな…
「ーーーい!おいっ!大丈夫か!?」
あれ…誰だろ?
誰かが私を抱き起こしてくれてる。
失われつつある視界で捉えたのは、真っ白な雪のなかでも一際目立つ赤色の髪だった。
燃えるような赤色だけを瞼に焼き付けて視界は暗く…意識はなくなった。

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