落ちる恋あれば拾う恋だってある

ふと入り口を見ると、自動ドアのすぐ横の台座に新しくアレンジメントが飾られている。では椎名さんが来たのだろう。

もうアサカグリーンの窓口を総務の誰かと交代したい。顔を合わせたくない。

『夏帆ちゃんとあの人じゃ似合わないね』

椎名さんにそう言われて傷ついた。また同じようなことを言われたら、社内の噂で潰されそうな私の心は止めを刺される。



レストラン事業部のフロアに向かって歩いていると、コツコツとヒールの音が通路の先から聞こえてきた。こちらに向かって歩いてくるのは椎名さん以上に会いたくない宇佐見さんだった。
一瞬怯んだけれど、今引き返すのは逃げたと思われる。私悪いことなんて何もしてない。いつも通りにやり過ごせばいいんだ。

宇佐見さんとすれ違った時「お疲れ様です……」と言葉を絞り出し、そのまま距離が離れたと思った。

「北川さん」

予想外に宇佐見さんに呼ばれて恐る恐る振り返った。

「な、なにか……?」

「営業推進部の扉のすぐ上の電球が切れちゃったんです。交換しといてくれません?」

「私がですか?」

「そう」

そんなの気づいた人がやってくれればいいのに。電球の予備が置かれてる倉庫は営業推進部のフロアと同じ階にある。なのに私に頼むというの?

「……分かりました」

ここで断ったら今度はどんな酷い噂を流されることか。だったら嫌な雑用でもやるしかない。

「さすが雑用係の北川さん」

宇佐見さんは怖いほど明るい笑顔を向けた。そう思った瞬間、急に真顔になった。

「浮かれて調子に乗らないでね」

そう言い捨てると通路を歩き去った。

「え?」

今、調子に乗るなって……私に言ったよね?

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