どうぞ、ここで恋に落ちて
２１.砂糖とスパイス、そして恋
私の部屋に、樋泉さんがいる。
まだそのメガネの秘密も知らず、栄樹社から営業にやってくる彼を憧れのスーパーヒーローと尊敬していた頃の私にひとこと言いたい。
とりあえず部屋を片付けろ、と。
もうとっくに日付も変わっていて、外ではご近所さんの迷惑になると思って部屋の中に招き入れたはいいけど、洗濯物や読みかけの本と漫画が出しっ放しなことをすっかり忘れていた。
緊張気味の樋泉さんが玄関に足を踏み入れた瞬間にそのことを思い出した私は、部屋の中に干してあった下着類を慌ててバルコニーに放り出す。
19型の小さなテレビの前にあるローテーブルに積まれた本たちは、クローゼットの中へ。
パンパンだったゴミ箱の中身を取り替えて、縛った袋はバルコニーに追加で放り込み、きっちりとカーテンを閉める。
パソコンデスクの上や本棚に見られて恥ずかしいものがないことを確認し、１Ｋ９畳の見慣れた部屋をぐるりと見渡す。
朝起きたままの乱れたベッドを変に緊張しながら直して、ようやく玄関で待たせていた樋泉さんを呼んだ。
ちょっと贅沢して選んだシステムキッチンには手が回らなかったけど、もとがキレイだからこの際気にしないことにする。
人を呼べないほど散らかっているわけではないにしろ、ショールームのようにすっきりした樋泉さんのお部屋を知っているからなんだか恥ずかしい。
