どうぞ、ここで恋に落ちて

「あのね色葉ちゃん、私がオススメしたかったの、コレだよ」


さっきまで橘くんがいた場所に色葉ちゃんを立たせて、正面の棚に置いてある本を指差した。

色葉ちゃんがおずおずと手を伸ばし、背表紙に指をかけ、その一冊を選び取る。


「これ、さっきの……」

「うん、橘くんが選んだものと一緒」


本当はもっとたくさんこの物語について熱弁したいことがあるんだけど、これは色葉ちゃんと一冊の本との出会いの瞬間だから、私がこれ以上介入してしまわないようにグッと堪える。

色葉ちゃんは両手で持った本の表紙をしばらくジッと見つめていた。


彼女はいつも、じっくりと本棚を見て回ってから購入する本を選ぶ。

私がオススメしたものも、即決ではなくて、自分の中でいろいろと吟味してからレジへ持って来てくれることが多い。


「それじゃあ、ゆっく……」

「古都ちゃん!」


だから今日もゆっくりと考えてもらうためにその場を去ろうとすると、少し頬を赤くした色葉ちゃんが勢いよく顔を上げた。
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