どうぞ、ここで恋に落ちて

樋泉さんの形のいいアーモンド型の瞳は、何か言いたそうに切なげに細められ、まっすぐに私を射抜いて息を止めさせた。

彼に捕らえられた呼吸が行き場を失う。

だけどそれは永遠にも似た一瞬の出来事で、女の人の華奢な白い手がすぐに壊してしまった。


「ねえ洋太くん、聞いてる? これシミにならないかな」


彼女の手が樋泉さんのシャープな頬に甘えるように触れ、視線を引き剥がして強引に向きを変える。

ぴったりと身体を寄せた彼女は、樋泉さんが驚いて瞬きをする間に彼のメガネに指をかけた。

そしてそのままスルリと外して、いたずらっ子の猫のように真っ赤な唇で微笑む。


「やっぱり洋太くん、メガネなしのほうがかっこいいな。いつもイイ男だけど、こっちのほうがワイルドな感じがする」

「ちょ、千春子(ちはるこ)さん……!」


クスクスとからかうように笑う彼女と、慌ててメガネを取り返そうとする彼。

照れているのか、耳が赤く染まっている。


彼女、千春子さんっていうんだ。

私以外にも、メガネをしていない樋泉さんを知っていて、素敵だって思う女の人がいる。

そんなの私だけじゃないって、わかってはいたけど。

ていうか、恋人なら当然だよね。
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