どうぞ、ここで恋に落ちて

「あの、古都ちゃん。この前のことなんだけど、俺、あれからあいつにフラれてさ」

「ええ!?」


乃木さんに突然別れを打ち明けられて、思わず大きな声を出してしまった。

すると今度はまだつながったままの電話から、樋泉さんが私を呼ぶ声がする。


《高坂さん! まさか"お客様"って、この前の?》

「え? あの、えっと、ちょっと待っ……」


乃木さんの声があちらにも聞こえたのか、樋泉さんが焦ったように問いかける。


乃木さんが唐突に話を切り出すものだから、私はとっさに電話の向こうの樋泉さんに何と答えていいのかわからなくなった。

と、とにかく、樋泉さんにちゃんと説明して、もう一度お礼を言って電話を終えよう。

私は乃木さんに軽く頭を下げ、目線を逸らして、樋泉さんに向かって話しかける。


「あの、そうなんですけど、でも……」

《高坂さん、今どこらへんにいる!?》

「ど、どこらへん? 一期書店の前の通りを、駅の反対方向に向かって歩いてて、えっと……」


びっくりするほど必死な様子の樋泉さんに気圧されて、問われるままにだいたいの位置を口にした。
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