どうぞ、ここで恋に落ちて
薄明かりに照らされた店内にはとにかく所狭しと本が置かれている。
並びに決まりもなければPOPなどで飾られているわけでもなく、本棚にちゃんと収まっているものもあれば横にして積まれているものもある。
一見乱雑に見えるけれど、埃を被っている本はひとつもない。
「すごい、まるで誰かの書庫みたい」
フラフラと誘われるようにゆっくりと奥へ進む。
雑誌も漫画も小説も絵本も、中には受験の参考書まで、本当に誰かの本棚をまるごともってきたみたいに並べてあって、バラバラなのになぜかそのひとつひとつに目が留まる。
本の向こう側にある、手に取った人自身の物語さえ想像できそう。
私は呆気にとられたままくるりと樋泉さんを振り返った。
「素敵です。私、もうここが好きになっちゃいました」
春町駅から少し離れてはいるけれど、今までこんなお店があるだなんてちっとも気づかなかった。
樋泉さんてば、どうしてこんな隠れ家みたいな本屋さんを知ってるんだろう。
感動を抑えきれずに声を弾ませると、本棚に挟まれて立つ樋泉さんがほっとしたように笑って頷く。
「そっか、よかった。実はここ、俺の……」