僕の許嫁(仮)が怪しすぎる!
朱羅が僕をにらむ。
「腹話術じゃない。父は、父も…呪われているんだ。父は産まれた子供が女の子と知ったとき、私を逃がそうとした…それがこっくりさんの怒りに触れたのだ。」
朱羅は悔し涙を流す。
「これ、どこかにスピーカー入ってるのか?」
「痛い、痛い!逆さに持つな!」
うわっ!マジで喋った。
「藍君が信じられないのも分かるが、私はこの縫いぐるみの中に魂を封じこめられたのだよ。本来の身体は、延命装置に繋がれておる。」
「マジすか。大変ですね。」
「私は君たち二人に愛のない結婚を強いたくはないのだよ。…だから、本当は二人を逢わせるつもりはなかった…。」
縫いぐるみのくせに、マトモな事を言ってる。
「ダメよ。私は藍と夫婦になり、子を産み、お父さんの呪いを解きたいの!!」
すごくいい話だ。
でも、絵的にはイマイチだ。
なんせ、もふもふだからなあ。
「まあ結婚の話は置いといて、朱羅のお父さんが一緒なら、僕も安心です。うちに泊まってください。」
「おお、ありがとう、藍君!」
「安心…って、どういう意味だ?」
朱羅は憮然としている。
「私は元・板前だから、今夜は何か旨いものを作ってやろう。」
えっ…作れるの?
どうやって?
「あっ…!」
僕の手から離れた縫いぐるみは、ふわふわと宙に浮かび、キッチンへ向かう。
そして、短い前足を動かすと、勝手に冷蔵庫が開いた。
「父は狐の念力が使えるんだ。心配はいらない。」
食材が冷蔵庫から飛び出し、まな板の上に並ぶ。
さらに包丁や鍋がひとりでに動き出し、それらを刻み始めた。
まるで、魔法だ。
朱羅のお父さんって…凄い。
「あ…でも、父は物を食べれないから、味付けはイマイチなんだよ。たまに酷いことになる。」
朱羅は慌てて、鍋に近寄った。
「味付けは私がします。藍、辛いのは平気?」
「え?ああ。」
何か…すごく不思議な風景だ。
でも、これを目の当たりにしちゃうとさ…やっぱり信じるしかないのか?
呪いとやらの存在を。
その夜、僕と朱羅は初めて同じテーブルで食事をとった。
料理は見た目が美しいが、味の方は…イマイチだった。
しかし、一人で食べる食事より、皆でワイワイ食べる食事の方が、満足なのはどうしてだろう?