軍平記〜その男、村政〜


文字通り、悲しみを絞りつくし、身体中から吹き出した絶望。

枯れ果てた涙と、地面の土。

匂いすら解らなくなった嗅覚に、時折感じる血生臭い匂いと、物が焼ける匂い。


心臓が潰されたような痛み。



どれ程時間が経っただろう。


総司が絞り出すように言った。

「お、俺は、忘れない。」

「今日と言う日を決して忘れない。」


総司は胸に抱いたりょうに精一杯の笑顔を見せる。

「今日限りもう二度と悲しみの涙は流さない。」
りょうに言い聞かせる。

「必ずや大望を成し遂げる。それまでは歯を食いしばり笑ってやる。」


うつ向きながらも頷く村政。

「俺ももう泣かない。笑ってやる。へらへらとどんな時も笑って乗り越えてやる。」

村政は立ち上がった。


総司は遺体に突き刺さった刀を抜いた。


腕に刀の刃をあてる。
スパッ!
鮮血が流れる。


「村政、来てくれ。」

総司は村政の腕に刀を滑らせる。


「我等二人この屍の山の前を以て義兄弟の誓いを交わす。」

お互いの腕を組み合わせ血を交わらせる。

「願うならば、我等共に生き、お互いの命が尽きるまで不動不屈の精神で大望を成し遂げる!」


二人の血がりょうの額に落ちた。

それでもりょうは、泣きつかれて、すやすやと寝息をたてていた。

「ふふ。りょうも我々の誓いの証人だ。」
総司は、りょうの額の血を拭き取る。


「絶対に許さぬ。」

総司はうめくように言った。


村政は郷の惨状をもう一度目に焼き付けた。


「必ず、みんなの仇を取るからな。」



総司と村政、りょうの姿は山の中へ消えていった。

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