軍平記〜その男、村政〜



様々な波が入り交じる飛島は、接岸が難しい島だった。


昔から飛島は神聖な土地として敬われていた。

青葉国と大蝦夷国の境界に位置する飛島には、神が住む島と呼ばれ、二国の協力で大神宮が建立された。


伊達夏円はマサムネを切った刀をこの大神宮に奉納した。


その刀は「斬鉄」(ざんてつ)と言う。

七本国の名工、石川斬鉄(いしかわざんてつ)が生涯最後の一本として打った吹き流しの斬鉄。

髪の毛を吹き付けるだけでも切れる刀。

余りの切れ味のため、伊達家により奉納された。

以上の話を総司と市郎から聞いた村政。


総司は船出の前に村政に言った。

「あるいは、最強の使い手と、最強の刀。これがあればマサムネにも勝てるやも知れぬ。」



飛島に接岸した市郎の船。


村政は船から一人、大神宮へと歩きだした。


島は荒れていた。何年も誰も踏み入った事の無い島内はウミネコ、カモメ海鳥達が飛び交っていた。


山の麓に大神宮があった。

ボロボロだった。

鳥居も崩れ、社も荒廃していた。

「ここにあるのか?」

村政は辺りを見渡す。


社の中へ入って行く。


中は非常に暗い。
足下さえ危うい。


社の祭壇に人影が見えた。
「だれだ!」
村政が暗闇の人影に問う。


「ほほう。人かえ。こんな所に珍しいわいな。」

老婆の声が聞こえた。


「この社の者か?」
村政が聞く。


「そうじゃ。この社を守る巫女じゃ。」


「巫女か。ならば聞く。ここに斬鉄と言う刀があるはずだが、しばし貸してはくれまいか。」

村政が巫女に聞く。


「ああ、あるとも。しかし、渡すには条件が有るのじゃよ。」


「条件?どう言うことだ?」


「夏円様はワシに斬鉄を託された時、こう言っていた。誰か再び斬鉄を求めて訪ねて来たとき、その者が斬鉄を扱うに価するかお前が試すのだとな。」

と、巫女は突然飛び上がって表へ出た。

「むむっ。」
村政も飛び出す。


マサムネとの戦いによって体は完全ではない。

見ると巫女は物凄くシワが深い。一体何歳なのかすら解らない。
しかし、その動きは無駄の無い柔らかな、流れるような動きだった。


「さあ、ボウズ。私に触れる事が出来たなら、斬鉄を渡そう。」


村政が身構え、巫女の動きを追う。


ユラリと追従をかわす巫女。

「どうした。そんな動きでは次に何をするか丸見えだぞ。」
巫女は村政を笑う。


何とした事か。

全く触れる事が出来ない。

「来ないならワシから行くぞ。」
錫杖を村政に当てる。

軽く振っている筈なのに村政に容赦なく当たる。

「くっ!掴みようがない。」
苦戦する村政。


剛である村政に対して、柔である巫女は正反対の属性である。

全く触れる事が出来ない村政。

「そんな殺気を出していては丸分かりだ。詰まらん男だのう、貴様は。」

錫杖が尚も村政を打ち据える。


「ふぅ。どうしたものか。」

村政は思案に更ける。


斬鉄は果たして手に入るのか。
< 30 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop