ホップ・ステップ・飛び膝蹴り
柔らかな布で汚れをふき取ったら、かごに戻していく。
ガコン、ガコン。
嫌になるくらい響いている。
「李穂、これも」
シュッ、と飛んできたボールを受け取る。
「頼むのが遅い」とこぼせば、「あーはいはい」と面倒そうな返事。
しばくぞ。
部室棟の方に歩いて行ったから、きっと着替えてくるんだろう。
あたしと違ってまだ体操服姿だったしな。
あたしも早くボール磨きを終わらせて帰ろう。
綺麗になるボールとは違って、くすんだままのあたしの心。
磨く方法は、知らない。
ボールを片づけたところで、大成が体育館に戻って来た。
ちゃんと制服だ。
あたしの代わりに鍵をかけて、
「送るから待ってろ」
そう言い残して職員室に鍵を返しに行った。
「……ずるいな、お前は」
春の明るい夜。
光の中にあたしの言葉が呑みこまれた。