ひとしづく
未だの春
 校門を抜け、一年生の下駄箱に着くと、ホワイトボードにクラス分け一覧が張り出されていた。
「榊のクラスはなぁに? 一緒だといいね」
 命理がからからと笑いながら視界に入ってくる。お前の顔でクラス表が見えん。
「お、榊利明みっけ! 1組だ...ってぅお?! あたしと同じじゃない!」
 何が嬉しいのか、すこぶるはしゃいでいる命理。うるさい...。
「席、隣かなぁ?!」
「どうだろうな」
 '前は'そうだったけど、'前々回'は違ったからな。よくわからん。
 僕は一組の下駄箱へ行き、自分の名前を見つけ出して靴を投げ入れた。鞄から上履きを取り出し、履く。
「なんかなれてるね、榊」神妙な顔して僕を見る命理。まぁ、こんなの小学の頃と変わらないしな。
 壁に校舎見取り図が貼ってあり、その前に大きな新一年生の人溜まりができている。僕はそれを無視して階段を昇る。
「あれ、見ないの? 教室どこだか分かるの?」
 僕はそれを無視して教室に向かう。第一校舎、三階だての建物で、その二階の一番端っこに位置する、一年一組の教室に入る。そこには机がすでに用意されており、各机に三角柱に折ったネームプレートが置いてある。僕は自分の名前が書かれている机に座る。窓際の、一番後ろだ。いい席だな。
「これ、なんの席順だろ?」あとからやってきた命理が僕の前の席に座りながら呟く。
「榊は後ろかぁ。あたしが後ろならイタズラできたのにぃー」椅子を重心移動だけで半回転させ、僕の机に顎をのせる命理。「ねぇ、放課後あそぼーよぉ」
 まだ初日の、入学式が始まる前から放課後の話か。
「別の人を探せよ。なんだって僕と居たがるんだ」上目遣いの命理を見下しながら言う。
「んー...」命理は顔を僕と同じ高さまで上げ、額をくっつけた。「それはぁー」
「好きだから...」
 そう言って僕の顎を寄せる命理。コイツ...アホの娘だろ。
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