艶楼の籠

椿の指先は私の髪の毛を撫で、耳へと下りる。


「っ!」


この熱のこもった視線と指先により、この人が、私を好きなのではという錯覚さえ覚える。


「さぁ。今宵も楽しもうじゃないか。」


杯を持ち、酒を注がれる。
その流れるような動きは、何度見ても美しい。


富さんが言っていたことを思い出す。
心の闇…。

彼が抱えている問題があるのだろう。
しかし…なんと聞き出していいものか…。
自然な話の流れで聴けると良いのだが、難しい。


「雅。俺と一緒に居るのに考え事か?」


「あの…すみません。」


「へぇ…俺以外のこと考えて、難しい顔をしていたっつーことか。…そいつは、雅を楽しませてくれるのか?」


椿以外の事ではない。紛れもなく、椿の事を考えていたが、その内容を話す訳にもいかない。


「もちろん、楽しませてくれると思います…。」


悟られまいと、視線を杯へ落とす。
まだ、並々と注がれた酒がキラキラと揺れている。


「へぇ。俺…以上かねぇ?…酒飲まないのか?」


椿以上な訳がない。椿自身のことなのだから。


「椿さん以上でも以下でもないです。お酒は…ちょっとずつ飲まないと酔ってしまって…。」


椿の身体が、私の肩に触れた。
そのまま、私の手の中にある杯を椿の口元までもっていくと、酒を一気に飲み干した。
その様子を見ていると、椿の瞳にとらえられた。

そのまま、顎を押さえられ唇が触れた。


「んっ……ふ…!」


椿の舌が唇をこじ開けてくる。
同時に酒が一気に口内へと流れ込んだ。
飲み込まない訳にいかず、喉が焼けるような感覚を味わった。



あれから、どのくらい時間が経っただろう。


「椿さ……もぉ…っ。」


何度口移しされただろう。
酒のせいか、椿のせいか…頭がクラクラする。
椿の酒に濡れた唇は、いやらしく光っている。


「俺といる時は、こうやって俺以外の事を考えさせない。…もう、酔ったのか?」


「もう…すごくクラクラします…。」


身体も、唇も熱い。


「雅の唇は、柔らかいな……んっ。」


「ふっ………ん…。」


椿は、私をきつく抱きしめ先ほどとは違った口づけをしてくる。
身体の芯が溶けていってしまうような…。


「雅…あんたの顔……気持ちいいって書いてあるぞ?これが、本当の口づけだ。さっきのは、単なる口移しだからな?」


胸が痛い程、鼓動が強くなるばかり。
この椿の、熱のこもった表情が更に、胸を締め付けてける。
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