赤いエスプレッソをのせて
いかんいかん。彼は生粋の絵描きなんだ。

私のように簡単にポエマーを諦めてしまった人間とは違うんだった。

大好きなことに懸ける情熱に差がある……なんだかちょっとさみしく感じるのは、なんでだろ。

そうしてようやく、彼が肩の力を抜き、ふう、とひとつ大きな息を吐いた。

動きたい。動きたいけど、ここは焦らず、彼がOKをくれるのを待ち、

「――よし、いいよ」

という言葉をしっかり抱き止めてから、さっと両手を出した。

「見たい見たいっ、っていうか見せなさいよ」

なにせ、ほかの誰でもない私を描いたものなのだ。

たとえまだ色が塗られていないにしても、下書きのものでも、みたいに決まっている。

「じゃあ下書きのほうを、はい、どうぞ」

と、彼は快くスケッチブックを差し出してきた。

その傍らで、イーゼルに乗ったキャンバスをそっと、布に包む。

そっちは見せてくれないのね、まあいいわ。
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