赤いエスプレッソをのせて
「どちらへ?」

一緒に立ち上がった彼の肩を、ポン、と押すことで椅子へ落とした私は、ピッと勘定を抜き取った。

「悪いけど私、ほんとーにそういうのじゃないですから。そんなヘンチクリンなことに巻き込まないでくださいよね」

「で、ですが僕には……」

「そっ・れっ・かっ・らっ」

また立ち上がろうとした彼を、もう一度椅子に突き落としてやる。

「アンタの頼んでることって、なんのかんの言っても、殺人よ? 普通、そんなもん受ける人なんていないでしょ。アンタ、とりあえず精神科行ったほうがいいんじゃない?」

それでもまだなにか言いたげな彼に、だめ押し。

「それじゃ、お会計は私が持っときますから。デート中、ごちそうさまでした。ありがとうございました。はい、さようならっ」

なにもかもはね除けるように言葉を叩きつけ、レジへぱっぱと進む。

彼は、追いかけてこなかった。

そしてもちろん。

戻って来た時にはもう、彼はいなくなっていた。

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