赤いエスプレッソをのせて
山久は昨日、私を家まで送り届けると突然、

「いけない美代さん、すぐに僕を中に入れてください」

「は?」

「いいから、お願いします。なにもしませんから、早く。事情は説明しますので、とにかく急いで」

と珍しく険の強い顔で言いつつ、なかば強引に部屋へと押し入ってきたのだ。

なんなのよ、と、後ろ手で鍵を閉める彼に問い質したが、山久は答えることなく、くるりと背を向けて覗き穴から外を確認した。

強引に部屋へ突入されて、こっちの心臓はドキドキバクバクものだというのに、この男はまったくの無視か。

山久の変人ぶりは今に始まったことじゃないし、と諦めて部屋の奥へ入って座り、コンビニからで田尾こぼれ弁当に手をつける。

と、ようやく、

「ふぅ」

山久は大業を成し遂げたかのように大きな溜め息を漏らし、ドアの前から離れた。

そのタイミングをずっと見計らっていた私は、当然そのチャンスを逃さない。

「で? 説明してもらいますよ、赤毛の紳士さん。レディーの部屋に強引にも押し入った理由は、いったいなんでございましょうねぇ?」
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