小さな恋物語


弱っているとき、優しくされたくない。


特に、私のことを何でも分かってしまうような人には―――。


「アイツのことか」


明るい声から一転して、響くような低い声に変わる。

それにびくりとして、思わず亮から目を逸らしてしまった。
どうして私は詰めが甘いのか…。

こんなふうに反応したらすぐに分かってしまうのに。


「杏、何か気づいてるんだと思うから言うけど。昨日、アイツが女連れて歩いてるところを見た。親しそうな感じだったよ。仕事の付き合いとか、そういう空気じゃなかった」


…長いこと付き合って、最後は何て安っぽい展開なんだろう。

それとも長いからこそだったりするの?


「やっぱりそうか…。この前、家に行ったとき髪の毛が落ちてた。その人、茶髪のロングだった?」


亮が無言でうなずく。

他に女を作っていたのか。最近連絡を取っていなかったけど、その隙に…。

その女に本気ならいい。遊びで二股をかけられているほうが、たまったもんじゃない。
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