溺愛オフィス


トイレから出て手を洗う。

美咲はまだメイク中だ。

私たち以外には人はいない。

ポケットからハンカチを取り出して手を拭いていると、美咲が再び振り返る。


「ね、柊奈。今週の金曜は早く上がれる?」

「んー、わかんないなぁ」


仕事のスケジュール的にはきつきつではないけど、今の段階ではなんとも言えずに返事を濁す。

すると、美咲は「合コンあるけど、どう?」なんて誘ってきた。

危なかった!

金曜が微妙で良かったと心の中で安堵しながら首を横に振る。

美咲は予想していたのか、やっぱりねーと小さく笑って。


「ごめんね」


私が謝ると、わかってましたからとおどけたように言う。

そして、化粧ポーチから口紅を取り出すと。


「ところで、もしかして新人君と喧嘩でもしたー?」


前触れもなく、壮介君のことを聞かれた。


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