溺愛オフィス


私は会社を抜け、松岡さんから呼び出されて駅前のカフェに来ていた。

平日の午後、昼時を過ぎたカフェは適度に空いている。

クラシック調の音楽が控えめに流れる店内で、私はアイスカフェオレを一口飲んだ。

向かいに座る松岡さんは、今日はオフのようでいつもよりカジュアルな格好をしている。


「一昨日は、KAORIが失礼なことをしてすみませんでした」


そう言って、松岡さんが私に差し出したのは茶封筒。

「これは?」と質問すると、ポップコーンの代金だと教えられる。

私はいらないからと茶封筒を松岡さんの方へ押し返した。

けれど、彼女はもう一度私へと差し出して。


「KAORIは食べる気もなく言ったんです。ただ、あなたをからかっただけで……」


ですから、受け取ってくださいと強めに言われ、私は仕方なく受け取る。

すると、松岡さんは心配そうに眉間を寄せて。


「桜庭さんは、大丈夫ですか?」


そんなことを口にした。


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