溺愛オフィス


壮介君は暫く無言だったけど、やがて。


「あれもこれもって、柊奈さんって結構欲張りだね」


そう言って、壮介君はちょっとだけ笑みを作る。

そして「そっか。自分の為、か」と呟いたかと思えば。


「だったら、俺も柊奈さんと自分の為に頑張んなきゃだな」


彼はハッキリとした声で告げてから、歩みを止めた。

何故立ち止まったのかわからないまま、私も壮介君に合わせて立ち止まると──


「ひとつ、思いついたことがあるんだ。多分、賭けにはなるけど」


壮介君の言葉に、私の心が期待で満ちていく。


「な、なに? どんなこと?」


賭けでもなんでもいい。

どんなことか教えて欲しくて、壮介君に視線を送る。

けれど壮介君はニッと笑って。


「桜庭さん、まだ会社にいたよな?」


そんなことを聞いた。

私が「いたけど……」と思い出しながら答えると。


「よし。とりあえず、会社戻ろう」


壮介君は踵を返し、足早に会社へと歩き出して。

夕焼けの赤さが僅かに残る空の下

私も慌てて、彼の背中を追ったのだった──‥















< 242 / 323 >

この作品をシェア

pagetop