溺愛オフィス


「い……」

「ん?」

「いやっ!」


ドンッ、と突き飛ばすようして離れた私の行動に、理性はなかったと思う。

勝手に体が反応し、手が出てしまったのだ。

心臓がバカみたいに暴れてる中、桜庭さんを見れば、彼は訝しげに私を見つめていて。


ど、どどどどうしよう。

とても失礼なことをしてしまった。


だけど、体に残る桜庭さんの体温と力強さのせいで、思考がコントロールできない。


「あ、あのっ、ごごごめ、ごめんなさい!」


とにかく、謝ることしか脳内に浮かばなかった私は、それだけ告げると資料室を飛び出した。


逃げるように自分の席へつき、息を吐き出す。

気付けば、僅かに手が震えていた。


ああっ、またやっちゃった。

以前にもこんなことがあった。

付き合っていた彼に突然抱き締められ、押し倒され……


その力強さに父親の姿がダブったのだ。


自分より大きい父親が、怒りに満ちた瞳を自分に向けている

その姿と。


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