溺愛オフィス


「プロジェクトはどうなるんだろう」


定時も過ぎ、残業の合間の休憩中。

フロアの一角にある休憩コーナーで、私は壮介君と二人、椅子に腰掛けながらコーヒー片手に声を零した。


「その辺りは、しばらく海外から指示があるんじゃない?」


私の問いに答えた壮介君は、そのまま話を続ける。


「まあ、実質的にはほぼメインの広告は終わってるし、あとは柊奈さんが街中に貼り出されるまでの調整だろ?」


グランドオープンに向けては全体で動くし、桜庭さんがいなくてもどうにかなる。

そんな風に聞こえる壮介君の言い方に、私は相槌さえも返せなかった。


確かに、桜庭さんが海外に行ってしまっても会社はまわる。

ブランドマネージャーというポジションは重要だけど、それも代わりはいるのかもしれない。

でも、私に個人にとって、桜庭さんの代わりになりえる人は……いないのに。

例え、想いが叶わないとしても、彼の近くにいたいと願ってしまう私は、我侭なんだろうか。


桜庭さんのいない日常を想像して、なんだか少しだけ泣きそうになる。

それを、唇を噛み締めることで留めていたら……


「柊奈さん、前に聞いたよな。俺がアルモにバイトとして入った理由」


急に、壮介君が話題を変えて。


「あの時、柊奈さんがいたからって言った冗談さ……冗談じゃないんだ」


真剣さを漂わせた笑みを浮かべて、そう言った。


< 300 / 323 >

この作品をシェア

pagetop