溺愛オフィス


頻繁にお見舞いには行けないけど、休日には必ず顔を出しに行っていた。

毎回「暇なのか」とか「また来たのか」とか言われるけど、あまり気にしないようにしている。

なんとなくだけど、看護師さんが言っていた"不器用パパさん"の意味が私にもわかってきたからだ。

これは、今だからわかること。

子供の頃の私には感じ取れなかった、父の不器用さだ。


実は今日もお見舞いに行っていて、今もその帰り。

夏の盛りもそろそろ落ち着き始め、ファッション業界はすでに冬に向けて動いている。

こうして歩きながら見るショーウィンドウのアイテムも、すっかり夏の面影はなくなっていた。


リアライズの新ブランド"CaN Do"も先日無事にオープン。

売り上げも好調で、本社も活気付いている。

おかげで、桜庭さんも絶好調に忙しいようで……


「柊奈! 悪いな、遅れた」


休日のデートも、休日出勤をこなしてからの夕刻からとなっている。


「大丈夫です。私も今着いたところだから」


待ち合わせ場所に現れた桜庭さんに、私は微笑んで返す。


「とりあえず飯行って、それからうちに行くか。それとも、他に行きたいところあるか?」


問われて私は頭を振った。

いつもと同じだけど、それで構わない。

どこに行きたいとか特にないのもあるけど、忙しい時は、できるだけ休ませてあげたいから。


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