ハートブレイカー
「たまには惣菜もいいだろ。俺も今日は料理したい気分じゃないんだ」
「もちろん!私もお惣菜は時々買ってたし」
「ころっけおいしい!」
「おいしいね」

ニコニコしながらコロッケを頬張る直哉の口周りをそっと拭く。
それからいつものクセで、柔らかな黒髪をそっと梳くようになでたら、今日彼に会社でそうされたことを思い出してしまった。
慌てて手を引っ込めて、赤い顔を悟られないよう、少しだけうつむく。

「手は痛むか」
「え。あ、ううん。もう大丈夫。だから・・・」
「後片づけは俺がやる」

途端に顔をしかめると、彼に鼻の頭をチョンとつつかれた。

「なっ・・・」
「今日だけの特別サービスだと思って俺に甘えておけ」
「そんなこと・・・」
「俺が甘えろと言ってるんだ。だから甘えろ」

「今日だけ」と言いながら、彼は結構家事をしてくれる。
だから正直、申し訳ないなと思う。
彼だって忙しいのに。

ていうか、あなたに甘えるのは、絶対無理です。

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