ハートブレイカー
「浪川さんって彼いるんだ」
「・・・え」

いや。あの人「彼」じゃないけど。
ていうか、何でいきなり松田さんにそんなこと言われなきゃいけないのよ!

「薄っすらだけど、痕、ついてるよ」

自分のうなじあたりを指差して、松田さんはそう言った。

げっ!昨日の・・・! あんの・・・野郎!
彼は間違いなく私の敵だ!

「子持ちのシングルのくせに、子どもが理由で仕事を休んだり、遅刻や早退しないのは立派だと思ってたけど、そういうことか。同棲してるの?」

「同棲」って言われればそれまでだけど。
それより「居候させてもらってます」のほうがしっくりくるかな。
なーんて、この人に言うか!

「・・・べつに」

無難な逃げ言葉に、彼女がムッとしたのが分かった。
でもいい。
こんな人を朝から相手にするほど、私は健康じゃないから。

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