卯月の恋
ふぅん、と言いながら、男の人は自分の部屋の鍵を開けて中に入ってしまう。

ドアが完全に閉まる前に慌てて手をかけた。

「あのっ、お金ちゃんと返します。何時ごろでしたらご在宅でしょうか？」

部屋の奥から戻ってきた男の人は、一枚の名刺を私に渡した。

「玲音(れお)さん？」

名刺には、『club Ｌ』という文字とともにそれだけ書かれていた。
やっぱりホストだ。


「玲音、呼び捨てでいい」


部屋の前で、そう言って玲音は、くるりと私に向き合った。


茶色がかった瞳がきれいで、思わず見とれてしまう。
なんて透き通った瞳なんだろう。


「夜７時から深夜１時までは仕事。２時くらいに帰ってきて夕方６時くらいまでならうちにいる」

玲音は驚くくらいに真っ直ぐ、私の目を見て、そう言った。

「わかりました。じゃあ会社の帰りにまた伺います」


部屋に入ると、もう八時前だった。

慌てて着替えて軽くメイクをするとキリコの頭を撫でてから部屋を飛び出した。

駅まで続く桜道を歩きながら思わず鼻唄を歌っていた。


卯月。


私は恋に落ちた。


玲音という源氏名の、真っ直ぐな瞳をしたホストに。




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