卯月の恋
ぺたん、と玄関のタイルに座り込んだ。

微かな優しい音がして、目をやるとキリコがケージの中からこっちをうかがっている。


「…俺に期待するな、って言われてたんだもんね」


期待するな、と言われて私はわかった、と答えたのではなかったか。


それでも、好きだからそばにたい。
どんなに傷つけられたとしても、構わないと決意したのではなかったのか。


「キリコ…」


冷たいタイルに両手をついて起き上がって、キリコのケージに近付いた。

キリコをそっと抱き上げて、温かな背中におでこをあてる。


「あの人、誰なのかなぁ…」


知らないことばかりだ。
あらためて思う。


それなのに、どうしてだろう。


好きだ。
私は玲音が、やっぱり好きだ。



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