イケメン無愛想S男子と契約を


彼に1人じゃなく人といる楽しさを与える




なるほど。



愛用のイヤホンから流れる音楽はポップなテンポ。





彼を、楽しい気分にさせよう!

楽しいと思った時に人と一緒にいれば孤立より全然いいんだってこと、証明できる。






これは一ヶ月で契約を果たせる気しかいしない。





なぜか少し楽しみ。

つまんない日常にこんなにもワクワクすることが降ってくるなんて!







私は今週の日曜、
これを決行する。



まずは...彼の好きなことを探らなければ。









10月中旬。



今日は朝から彼に密着出来る限り密着しようと、いつもより朝早く家を出て靴箱で待ち伏せ。




「...おはよう。曽良さん」




「...あれ、ゆり。今日は髪の毛下ろしてるんだね」




「....!? よ、よく気づいたね」









あまりにも不意打ちな
名前の下呼びにドキュンと胸が高鳴った。




「......いつもと違う感じいいね。」



しかも、私のイメチェンに気がつくなんて...


かなり焦る...。




「そ、そうかな?」




このやり場のない気持ちをどう表現したらいいのか、
慌てる私の手は前髪を触り始める。




アップテンポな曲のかかったイヤホンの片方は胸ポケットの中。


片耳からは騒がしい生徒の朝の挨拶の声が
入り込んでくる。




...のに、


「いつもは、ふたつくくりぼさっとしてるもんね。」



曽良さん、


あなたはどうしてそんなことをわざわざさらりと言うのですか。




「.....そ、そんなことないし。」



なんだ...さっきのドキドキを返せ。


少し、ほんの少し、自分に興味を持ってくれたのかな、と期待してしまった。


見ていたのには変わりないけどまさか、マイナスイメージがついてたなんて。



頭が沸騰するほどはずかしい。




「そんな怒るなって、豚になるぞ。」



「....生まれた時から人間ですからなりませんけど。」




アップテンポな終了したタイミング。



「生意気。」



彼は私の耳から
イヤホンを引っこ抜いた。



だらんと垂れ下がった水色の線は、まるで私の心のよう。




「.....私はいたって普通ですけど。」




「俺に口答えとかいい度胸だな。」




「べ、べつに口答えとかしてないじゃないっんぐ」




彼はいたって余裕。



私の両ほほを彼の大きな手が掴む。



「...ヒヨコの口の出来上がりー。」




「...ひゃめりょ(やめろ)」




あのクールな曽良さんはどこへ行ったか、


私の口は思うがままにとんがって、本当にひよこみたい。



離して欲しいと手を伸ばせば彼は片手で軽く叩き落とす。



「........ひよこのくち、案外かわいいよ。」




「うしょつぇ(うそつけ」




「ほら生意気ー。離して欲しいなら、髪を下ろした理由を言え。」




彼のまっすぐな瞳に、私は目を離せなくなった。



そんなの.....少しは彼を意識したなんて



言えるわけない。


死んでも言えない。






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