常務サマ。この恋、業務違反です
そして、でも、と言葉を続ける。


「ちょっとニュアンスが違う。仕事の割合減らしてまで大事にしたいって思う女に出逢わなかっただけだ」

「っ……」


サラッと言われた言葉を、つい深読みしてしまう。


それって……。
思わず顔を上げた途端、手元でザクッと嫌な感触がして、その一瞬後に痛みが脳に伝わってくる。


「いった……」


反射的に左手を引っ込めた。
痛みの根源を確認するように目の高さまで持ち上げると、人差し指の先から赤い血が流れている。


「バカっ。見せてみろ」


ちょっと鋭い声が背後から聞こえる。


「あ、大丈夫。ちょっと切っただけ……」


咄嗟にそう言って笑おうとした途端、航平が手首を握ってグッと持ち上げた。
そして、なんの躊躇いも見せずに私の指をその薄い唇に咥える。


僅かに目を伏せた航平が、軽く吸い上げる感覚が指先から伝わってくる。
呆然と航平を見上げるだけの私の心臓が、ドクンと大きな音を立てた。


「……っ」


ジッと見ていたら刺激が強くなりそうで、航平を真っ直ぐ見上げていられない。
限界ギリギリで顔を大きく背けた時、ん、と短く呟いた航平が私の指を唇から離した。


「思ったほど傷は深くないみたいだな。良かった。……って」


微かに血が滲む指先をクッと指で押さえてから、航平は私を見下ろして息を飲んだ。
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