常務サマ。この恋、業務違反です
「私はそういう航平をとても誠実な男だと思うわ」


特定の彼女を作らずに、秘書にセクハラしてるかもしれないのに!?
さすがにそれを口には出来ず、私は黙ってエリーさんを見つめた。


「そういう噂がたつようなら、航平はちょっと誤解されてるだけよ」


私に言い含めるように、エリーさんはゆっくり口を開いた。


「航平が大事な人を作らないのは、中途半端にしたくないからだから」


その言葉に私が質問を続ける前に高遠さんが戻って来てしまって、話の続きを聞くことは出来なかった。
それどころか、その場の会話も全部英語に戻ってしまって、私はそれまでと同じように完全に蚊帳の外にいたわけだけど……。


時折ジムさんとエリーさんが優しく向けてくれる視線に辛うじて笑みを返しながら、私はずっと、高遠さんっていう上司のことを考えていた。


まだほんの数日の関わりしかない。
社内ではセクハラの噂が立って、それでも女子社員が色めき立つ『極上の男』
昔から高遠さんを良く知る人が語る彼は、この短い期間で私が見聞きした高遠さんとはどこか違っているようで……。
実は彼の核心をついているようでもあって……。


「……なんだよ、さっきからジロジロと」


沈黙の続いた車内に、突如そんな低い声が響いた。
え?と聞き返す間もなく、高遠さんが私に顔を向けた。


「今日私を同席させた理由はどこにあるんですか!?とでも聞きたいのか」

「それは確かにその通りなんですけど」


真っ直ぐ向けられた言葉に肩を竦めてそう呟くと、高遠さんは軽く肩を揺らして笑った。


「真剣な接待に同行させるレベルじゃないからな。それでも、一応接待の場の雰囲気を教えておきたかった。理由はそれだけ」

「はあ……。ありがとうございます……」


意地悪な言葉に、思わず肩を竦めた。
ずっと英語で会話していたのは、エリーさんが話してくれたことだけが理由って訳じゃないだろう。
英語も理解出来ない秘書は不必要だって、私に知らしめる為だったんじゃないか、とも思える。
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