常務サマ。この恋、業務違反です
「そんなことで文句は言いません。仕事なんだから、むしろ同行させてもらえて光栄です」

「じゃ、なんでそんな不機嫌なんだよ」

「一週間前とは、天と地ほど扱いが違う気がして」


先週とは打って変わって外出する予定が増えたっていうのもある。
それでも、高遠さんが私に同行を命令してきた時は、正直本気で驚いた。


つい今しがた終えた打合せも、先方五人の内三人がアメリカ人だったから、会議の間はずっと英語が飛び交っていた。
会議の記録をとろうとしても、難しい経済用語を英語で話されたら私にはなんのことやら全くわからない。


隣に座った高遠さんが、大事なところだけ日本語に翻訳してくれて、私はただそれを必死に書き止める。時々アメリカンジョークが場の笑いを取っても、私はタイミングよく笑うことすら出来ない。
そんな私を同行させるなんて、三ヵ月間、絶対にないと思っていた。


「本来それがあんたの仕事だろ? 佐藤さんにも、秘書として雇っているんだからいつまでも家政婦代わりにするなって言われたし」


シレッと返される高遠さんの言葉は、確かにごもっともなんだけど。
私は……特に外人相手の『初対面』の挨拶で、必ず私に向けられる視線に、本気で閉口していた。


「その通りなんですけど……。私、どこに行っても向けられる興味本位の視線に慣れないんですよね……。」

「は?」

「皆さん、私と挨拶した後、必ず高遠さんに一言言うじゃないですか。あれ、絶対『今までの秘書とは相当毛色が違うね』って言ってるんでしょう?」


ちょっと不貞腐れた気分でそう聞くと、高遠さんは、あ~、と漏れた声を抑えるように口元を手で覆った。


「もしかして、あの程度の英語なら理解出来る?」

「いいえ。全然。でも、高遠さんがいつも必ず苦笑して私を見るから」


そう、可哀想なものでも眺めるように。
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